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ARスマートグラス、EPSON MOVERIO BT-300をレビュー【開発者向け】

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情報関連機器、精密機器の製造企業、セイコーエプソン株式会社は2016年11月30日、ARスマートグラス EPSON MOVERIO『BT-300』を発売した。BT-300は、コントローラー兼用の本体がセットとなったスマートデバイス。独自開発の有機ELディスプレイを採用した。軽量化、高輝度、高コンストラスト、高解像度、高画質化まで実現した「表示枠を意識させない映像表現」が特徴。

BT-300の販売価格はビックカメラ.comで税込み8万9931円(送料無料)。8993ポイントがつく。さらにお使いのクレジットカード(筆者の場合は、DCMXカード)を使えば1000 dポイントも貯まるので実質価格8万円相当のデバイスだ。

過去にBT-200のアプリ開発に関わった筆者が、BT-300の気になる点を実機でレビューする。

EPSON MOVERIO BT-300の箱の中身開封

EPSON MOVERIO BT-300の収納箱おしゃれになった化粧箱
EPSON MOVERIO BT-300、洗練されたデザインのグラス部洗練されたデザインのグラス部

EPSON MOVERIO BT-300のスクリーン感を意識させない映像表現

本製品の最大の特徴はエプソン独自の0.43型超小型高精細カラーのシリコンOLED(Organic Light Emitting Diode:有機EL)ディスプレイを採用したことによる「スクリーン感を意識させない映像表現」である。

バックライトに照らされたスクリーンが見えてしまう(BT-200)バックライトに照らされたスクリーンが見えてしまう(BT-200)

映像(Unityちゃん)の周りに枠は一切見えない(BT-300)映像(Unityちゃん)の周りに枠は一切見えない(BT-300)

左写真の従来機BT-200では、バックライトを使用しているため、完全に透過にしても背景が薄く光り、スクリーン領域が分かってしまう。

右写真のBT-300のOLEDディスプレイは自発光であるためバックライトを使わない。このため、背景は全く光らずキャラクターのみがくっきり浮かび上がる。AR(拡張現実) コンテンツにおいて、スクリーンが見えなくなることで、より現実とバーチャルの垣根がなくなった。スクリーン感を意識させない映像表現だ。

輝度については、全く同じ画像がなかったのでBT-200のホーム画面とBT-300のストップウォッチ画面で輝度を比較してみる。色こそ違えど、明らかにBT-300の方が濃く表示される。

BT-200の画面の明るさ BT-200の画面の明るさ
BT-300の画面の明るさ BT-300の画面の明るさ

強調したい部分が濃く表示されることで、ARでは実在感が増す。5人にBT-300をかけさせたところ、自然と目の前の画面を掴もうとする動きをみせた。

もう一つ重要な利点は、現実の物体に「目のピントが持っていかれる」ことが少なくなる事。視界内にコントラストの高い現実の物体(例えば人の顔等)が見えると、眼は無意識にそれを追う。眼が現実の物体を追うため、グラスのシースルー映像からはピントが外れて二重にボケて見えてしまう。

BT-200の液晶では表示が薄く、現実の物体のコントラストに負けてしまうことが多々あった。BT-300では輝度が高いため、シースルー映像と現実を自然に組み合わせて見ることができる。もちろん、少し意識すれば周囲の方にピントを合わせることも問題なく行える。

「ピントが持っていかれる」極端なシチュエーション例Unityちゃんよりエナジードリンクに目が持っていかれる

また、戸外でのシースルー映像の見え方を確認したところ、BT-200ではサンシェードをしても太陽光下では見えづらかったが、BT-300でサンシェードを付けると晴れた秋空の下でもくっきり見える。

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EPSON MOVERIO BT-300の映像以外のハード面の進化

装着感としては、ヘッドセット部分が88gから69gへと19g軽量化された。おおよそ五百円玉2枚+100円玉が1枚分軽量になったことで、手に持った段階でも軽さが分かる。BT-200では鼻に重さがあり、長時間の利用は疲労感がある。BT-300はかけているのを忘れてしまう感覚だ。

ヘッドセットを保持するツルの部分が、BT-200では耳たぶにかける形で保持していたが、BT-300ではテンプルをおさえる形に変わった。これにより耳たぶの付け根に負担がかかることがなく、長時間の利用も快適となった。

ストレスを与えない形状ストレスを与えない形状

開発者にとって大事な眼鏡対応も万全だ。BT-200では自由に曲がる素材の鼻パッドを目いっぱいに伸ばすことで眼鏡対応することになっていたが、どうしても右に傾いたり左に傾いたりと不安定であった。一方、BT-300では専用の鼻パッドが付属している。鼻柱をしっかりホールドしてくれるのでどっしりとした安定感があり、この改善点は非常にお気に入りだ。

通常鼻パッド(左) 眼鏡用の鼻パッド(右)通常鼻パッド(左) 眼鏡用の鼻パッド(右)

めがね用鼻パッドに換装したところめがね用鼻パッドに換装したところ

コントローラ部については、十字キーが追加されている。BT-200では方向操作を全てトラックパッドのスワイプなどの操作で行っていたため、細かい操作を行うにはBlueToothキーボードがないと非常に大変だった。また、不特定多数の利用者に操作してもらう場合には、音量キーの上下で操作してもらうようアプリを作るなどの苦労があった。BT-300ではずいぶん直感的に操作できる。

十字キーが追加され、丸みがあり持ちやすくなったコントローラ部十字キーが追加され、丸みがあり持ちやすくなったコントローラ部

EPSON MOVERIO BT-300のカメラ性能

カメラの解像度はBT-200の30万画素から一気に500万画素となった。これにより、マーカー利用のARだけでなく、SLAMなどの技術を利用したマーカレスAR(例えば、KudanやSmartAR等)の認識精度の向上が期待できる。また、ハンズフリーでカメラ映像を動画でライブ配信することや、遠隔トレーニングに利用することも想定される。

EPSON MOVERIO BT-300で試し撮り・日中試し撮り・日中

EPSON MOVERIO BT-300で試し撮り・日中 試し撮り・日中

EPSON MOVERIO BT-300で試し撮り・夕方 試し撮り・夕方

EPSON MOVERIO BT-300で試し撮り・夕方 試し撮り・夕方

解像度こそ高いものの滲みや色被りがあり、静止画としては観賞向きではない。ARのためのセンシングや、動画のライブ配信などが本領だろう。

BT-300動画撮影テスト

なお、BT-200のカメラは長時間使用すると強く発熱する問題があった。一方、BT-300で試しに1時間ほどカメラプレビューさせ続けて触ってみたところ、気にすれば気づく程度の暖かさで、問題なく動作し続けた。

仕様の比較

続いて、前機種BT-200との仕様比較。動作温度等の細かい点は省いたので、詳細はこちら(『BT-200』の仕様『BT-300』の仕様)で確認。

機種名 BT-200AV BT-300
方式 高温ポリシリコンTFT シリコンOLED(有機EL)
液晶パネルサイズ 0.42型ワイドパネル(16:9) 0.43型ワイドパネル(16:9)
液晶パネル画素数 960×540(QHD) 1280×720ドット(HD)
画角 約23度 約23度(対角)
仮想画面サイズ 320型相当(仮想視聴距離20m時) 320型相当(仮想視聴距離20m時)
色再現性 24bitカラー(約1677万色) 24bitカラー(約1677万色)
プラットフォーム Android™4.0搭載(GooglePlay非対応) Android™ 5.1搭載(GooglePlay非対応)
対応動画(注3) MP4(MPEG4+AAC/Dolby Digital Plus)、MPEG2(H.264+AAC/Dolby Digital Plus) MP4 (MPEG4/H.264+AAC)、MPEG2 (H.264+AAC)、VP8
対応静止画 JPEG、PNG、BMP、GIF JPEG、PNG、BMP、GIF
対応音声フォーマット WAV、MP3、AAC、Dolby Digital Plus WAV、MP3、AAC
3D対応 サイドバイサイド方式 サイドバイサイド方式
内部メモリー(メインメモリー) 1GB 2GB
内部メモリー(ユーザーメモリー) 8GB 16GB
外部メモリー(注4) microSD(最大2GB)、microSDHC(最大32GB) microSD(最大2GB)、microSDHC(最大32GB)
接続端子 micro USB、ヘッドセット接続端子、4極ミニジャック(マイク付イヤフォンCTIA規格対応)、microSDカードスロット micro USB、コントローラー接続端子、4極ミニジャック(CTIA規格マイク付きイヤフォン対応)(注4)、microSDカードスロット
無線規格 IEEE802.11b/g/n IEEE802.11a/b/g/n/ac、Miracast®(Source/Sink)
無線周波数帯  - 2.4GHz帯 1-13ch、5GHz帯 36-144ch
モジュレーション  - ODFM、DS-SS
 想定干渉距離  - 10m
駆動時間 約6時間(動画ファイル連続再生時) 約6時間
ヘッドセット外形寸法(W×D×H) 185mm×170mm×32mm(シェード含まず) 191mm×178mm×25mm(シェード除く)
コントローラー外形寸法(W×D×H) 55mm×120mm×19mm(突起部含まず) 56mm×116mm×23mm(突起部除く)
ヘッドセット 質量 88g(ケーブル・シェード含まず) 69g(ケーブル・シェード除く)
コントローラー 質量 124g 129g
カメラ 30万画素 500万画素
センサー GPS/地磁気センサー/加速度センサー/ジャイロ GPS/地磁気センサー/加速度センサー/ジャイロセンサー/照度センサー
Bluetooth® 規格V3.0  バージョン4.1(Bluetooth® Smart Ready対応 )
Bluetooth®プロファイル HSP/A2DP/HID/OPP/SPP HSP/A2DP/HID/OPP/SPP/AVRCP/PAN
同梱物 USBケーブル(0.8m)、ACアダプター、シェード(2枚)、レンズホルダー、キャリングケース、マイク付イヤフォン、イヤフック、取扱説明書、保証書 シェード(1枚)、レンズホルダー、鼻パッド(本体に装着済)、めがね用鼻パッド、キャリングケース、テンプルラバー、イヤフォンマイク、ACアダプター、USBケーブル(0.8m)、スタートガイド、ユーザーズガイド、保証書

映像面では、ディスプレイの方式がシリコンOLED(有機EL)になり、またパネル画素数が960×540(QHD)から1280×720ドット(HD)に向上。HD画質の動画をそのまま楽しめる。BT-200発売時から広画角化は望まれているが、今回は据え置きだ。画角は光学系の重量とのトレードオフの関係にある(エプソンのコア技術を結集!スマートグラス「MOVERIO BT-200」を参照)。

CPUについては仕様には書かれていないが、技術FAQ*1によると Intel® Cherry Trail. Atom™ x5 1.44GHz Quad Core となっている。

面白いのは、センサーに照度センサーが追加されている。例えば、戸外に出て急に明るくなったなら画面の輝度を最大まで上げるといった用途が考えられる。逆に、部屋が急に暗くなった瞬間に画面にキャラクターを表示させる等のコンテンツも面白い。

対応動画コーデックとしてGoogle(そしてYoutube)が推進するVP8が追加された。なお、対応音声フォーマットからはDolby Digital Plusが消えている。

ソフトウェアとして大きな変化はAndroid5.1搭載になったこと。BT-200に搭載のAndroid4.0.3は2014年6月発売当時で既に時代遅れだったが、BT-300のAndroid5.1は2016年11月時点でシェアの30%、Android5系とそれ以前バージョンを合わせると過半数以上のシェアとなる。十分にメインストリームと言えるだろう。

既存のAndroidアプリをMoverio向けとしてMOVERIO Apps Marketへ登録する場合も、わざわざAndroid4.0.3に合わせる必要がなくなる。また、アプリケーション開発用のライブラリやSDKは、概ねメインストリームのバージョンをターゲットにしている。これらをフル活用できるメリットが大きい。

OSが新しくなったことで搭載のWebブラウザがChromiumベースになった。

HTML5 APIの可能性

OSがAndroid5.1となったことで、モダンなブラウザが搭載された。ブラウザのバージョンは組み込みブラウザがのChrome39(Moverio BT-300 Hands On Review*2参照、2014年11月リリース)だ。WebViewはChromium50(技術FAQ*1参照、2016年4月リリース)とされているが、筆者の環境で確認したところ、こちらもChrome39だ(後から更新されるのかもしれない)。

html5etst組み込みブラウザのhtml5test結果
Screenshot_2016-12-02-11-34-14 WebViewのバージョン

HTML5test
HTML5test - How well does your browser support HTML5?

WebGLによるグラフィック

WebGLの機能チェックを行った結果をスクリーンショットで取得した。

webgl機能の確認 グラフィック機能の確認1

グラフィック機能の確認 グラフィック機能の確認2

グラフィック性能の確認 グラフィック機能の確認3

グラフィック性能の確認 グラフィック機能の確認4

いくつかデモを試した。特に遅さを感じさせずスムーズに表示される。

Three.js 布シミュレーション Three.js 布シミュレーション。30fps出ている。

Three.js シェーダを使った溶岩トーラス シェーダを使った溶岩トーラス

Depth Bufferを使用したデモ Depth Bufferを使用したデモ

Depth Bufferを使用したデモ Depth Bufferを使用したデモ

その他のAPIについては確認中

YoutubeのMoverioチャンネル*2によるとヘッドトラッキングによるWebVRやWebRTCが出来るようなのだが、筆者の環境ではまだ動作を確認できず。

EPSON MOVERIO BT-300の仕様には現れないポイントをチェック

仕様書には書かれていないが、『BT-200』の開発ドキュメントと『BT-300』の開発ドキュメント*3を読み比べると色々と違いがある。

センサーに関しては、BT-200ではトラックパッドかヘッドセットどちらのセンサーユニットを利用するか切り替える仕様だったが、BT-300では同時に使用可能となっている。ヘッドセンサを使用しながら、同時にトラックパッドを3Dマウスの様に使うことが可能。また、BT-300の開発ドキュメントの6.1.1センサー一覧を見ると、温度センサー、重力センサー、タップセンサー、直線加速度センサー、回転ベクトルセンサー、補正なしの地磁気センサー等などが並んでいる。

5.1.2の外部接続カメラの項目では「micro-USB コネクタに、UVC1.0 対応カメラを接続して使用することができます」と書かれている。

BT-300にUSBカメラを接続した状態BT-300にUSBカメラを接続した状態
BT-300の画面キャプチャ。USBカメラの映像が映し出される。BT-300の画面キャプチャ。USBカメラの映像が映し出される。

左の写真のようにBT-300のトラックパッド部にUSBカメラ(Microsoft HD-5000)を接続したところ、問題なくUSBカメラを認識することが確認できた(「USBカメラ トライアル版」を使用)。全てのUVC対応カメラの動作を保証するわけではない旨と書かれているが、これは色々な拡張が期待できる。

EPSON MOVERIO BT-300の快適な開発環境

前機種『BT-200』の開発ドキュメントと『BT-300』の開発ドキュメント*3を見比べてると、BT-300の内容はずいぶんとシンプルになった。

BT-200でのアプリケーション開発環境構築には、以下のような煩雑な手順があり、Unity等で手軽にコンテンツを作りたい非開発者(例えばデザイナーや学生)にとってはハードルが高かった。

  • 開発者サイトへの登録
  • USB ドライバの設定ファイルを手作業で書き換え
  • 開発者用システムソフトウェアの適用(適用後はDRM非対応となり、二度と元に戻せない)

BT-300ではこれらの手順が全て不要。一般的なAndroidアプリケーションの開発環境があれば、あとはUSBドライバのインストーラを実行するだけで、すぐにでも開発をスタートできる。

Moverio独自のAPIを使用するには、開発者サイトからjarファイルをダウンロードしてプロジェクトに組み込むだけ。また、Unityにも対応しており、BT-300用Unity Plug-inを提供予定*1

今後はハンズオンなどのイベントで各種SDKを使った開発レクチャーを行いやすくなるだろう。参加者にはAndroid開発環境を整える手順を予め通知し、ノートPCにセットアップして来てもらえばハンズオン開始と同時にBT-300アプリの開発に入ることができる。

「視聴」から、EPSON MOVERIO BT-300の「体験」へ。

Moverioシリーズを振り返ると、初代のBT-100にはカメラはついておらず、パーソナルシアターとしてのAV機器だった。二代目のBT-200になってカメラが付いたが、BT-200のイメージムービーでは、動画やWebブラウザを“視聴する”シーンがほとんど。

BT-300では「視聴から体験へ」を大々的に謳い、イメージムービーでは冒頭から他の機器とのデータ連携を行うアプリケーションの体験から始まる。三代目にしてついに、体験型のアプリケーションプラットフォームとして生まれ変わった。


*1 
技術FAQ
*2 
Moverio BT-300 Hands On ReviewおよびMastering the Video Camera
*3 『BT-200』の開発ドキュメント『BT-300』の開発ドキュメント

体験・レポート