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網膜色素変性症患者がARスマートグラス『EPSON MOVERIO BT-300』を使ってみた

2017/01/30
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野村健介

この聞きなれない病気の患者は、4,000~5,000人に一人、日本全体世界で考えるととても多くの人がこの病気で苦しんでいます。進行性の病気で失明に至るケースが多い病気で、現在治療法がありません。日本、アメリカを中心に多くの研究施設で治療方法が模索されています。具体的な症状としていわゆる「夜盲」つまり、暗いところで見えない症状があげられますが、一般の方にとっての「暗い」という明るさと私たちの患者の「暗い」に大きな差があるのです。

網膜色素変性症患者は、弱い光に反応できず、夜道や薄暗い室内で何も見えない

網膜色素変性症患者は、例えばコンサートや映画館で「明るい」という客席の状態で、私たちは光っている照明器具そのものの光しか感じません。また、飲食店の照度も一般に「落ち着いた照明」「大人の雰囲気の照明」という明るさは私たちには「何も見えない」明るさです。

夜空に星がまたたいている「らしい」ですが、私たちは星の光を感じることはできません。月が出ていればなんとか歩けるというのも、月そのものしか見えないので道に穴が開いていても前に壁があっても見えません。さらに、視野が狭くなります。症状はすべての網膜色素変性症患者とは異なります。消えてしまう視野も網膜色素変性症患者などそれぞれで違い、中心が残る人、中心から消える人など様々ですが、徐々に消えていくので不安も強く精神的に苦しむことになります。視野が失われるという感覚はとても分かりにくいと思います。見えるところと見えないところが片目で見たときに混在するので説明のしようがありません。

遺伝性の病気と言われているが、、

網膜色素変性症はいずれにしても、この病気は何か原因があるのではなく、主に遺伝性の病気と言われていますが、私自身の家系にはこの病気を持った親族はいませんでしたが、3歳のころ、薄暗い玄関で手探りをして自分の靴を「当たり前のように」探す私を見て両親がぎょっとして国立小児病院で検査をしたところこの病気であることが判明したそうです。それ以来50数年少しずつ進行しながらもなんとか昼間、明るいところでの活動はなんとか一人で行える程度の現状です。

誰が見ても視覚障がい者と思われない

網膜色素変性症患者は白杖も持っていますが、明るいところではなんとか見えているので白杖を持たずに歩いている私を見ても誰も「視覚障がい者」とは思えないので、人とすれ違う時に見えずにぶつかった時など、謝ってもただ、ぼーっと歩いていると思われひどい言葉を受けることもあります。

この頃は妻の介助をお願いして昼間も移動し、一人のときはできるだけ白杖を使うようにしています。だんだん見えなくなる自分にとってこの「白杖を持って歩く」ということは精神的につらい面もあります。

視覚障がい者1種2級の手帳を所持しています。

軍用の暗視ゴーグルのモニターをしたが、街中では使えない

軍用の暗視ゴーグルを幾度かモニターさせてもらいました。軍用と言っても厳密には民生用に使用が許可されるのは一世代前の規格の性能のものです。湾岸戦争などのニュース映像で緑がかった映像がその暗視スコープの映像です。現在アメリカ軍などで使用されている世代のものは赤外線の補助光源がなくても昼間のように明るく見えるようです。

売られている民生用のゴーグルタイプの見た目は「軍用」「ミリタリー」なので街中で使うこともできず、価格も新しい世代のものだと150~300万円と非常に高価な機器なので買えません。もちろん、国からの障がい者に対する補助金の対象にもなりません。ですから、私たちは夜、出歩くときはものすごい照度のサーチライトのような懐中電灯で足元を照らしながら、よろよろ歩くしかありません。白杖を使いながら懐中電灯という光景を想像すると違和感がありませんか?これが私たちの実情なのです。

網膜色素変性症患者がARスマートグラス『EPSON MOVERIO BT-300』を使ってみた

野村健介

起動→カメラ機能を自動的にたちあげる設定がほしい

妻に装着してもらい、カメラを起動するまでの設定操作をしてもらいました。この問題は、網膜色素変性症患者すべてにとって大きな壁になってしまうので、『EPSON MOVERIO BT-300』の電源をいれるとカメラ機能「のみ」が立ち上がる設定にし、ディスプレイの輝度も常にマニュアル・最大にしてからの使用が前提になります。

私たち弱視の人間(矯正視力0.03程度)の人間にとって、映し出されているアイコンなどは全く読み取れません。これは自分がもっているメガネがあれば、問題ないです。

片目の視野が消えている場合に二つのディスプレイの画像がうまく合致できないので(二つ見えたまま)できればどちらか一方の目のディスプレイのみを使えるような設定がほしいところです。

「夜間の目」として『EPSON MOVERIO BT-300』は世界中の何万という患者を救う

網膜色素変性症患者にとって、まだ改善の必要があることは事実です。このまま使用できるというわけにはいかずとも、大きな前進だと思います。『EPSON MOVERIO BT-300』に高感度のカメラレンズが付き、実像との比率が1:1になれば、私たちの「夜間の目」として世界中の何万という患者を救うことになります。

もとより、照度の低い場所での動画や静止画の撮影はモベリオには不必要なことなので当然ですが、レンズのF値、もしくはカメラで言うISO感度が通常のスマホ程度なので夜間の野外では光っている照明器具やネオン、車のヘッドライト以外は黒でつぶれているようです。スマホアプリで暗視●×という手合いのものが多くありますが、実際にはほとんどが画面自体を明るくしコントラストを落としている簡易的なものです。一方で、ビデオカメラなどの一部には暗い場所での動画撮影をより、鮮明にするために、様々な改良が進んでいますので、モベリオに今後同様の機能が追加されることを期待します。

カメラを起動して歩くことを前提に開発してほしい

もう一つだけ希望を書くなら、『EPSON MOVERIO BT-300』のカメラ画像と実際に見えているものの比率が1:1でないことです。今の比率でも動画やイメージ映像をみながら、運動したり休んだりするのにはとても良い大きさの映像サイズです。ですが、装着しカメラを起動して歩くことを前提に開発していないのでこれも仕方ありませんが、網膜色素変性症患者にとって距離感がつかめません。

操作すればズーム等で見たままの大きさに出来るかもしれませんが、デフォルトのサイズだと実像よりかなり小さく見える点を今後工夫していただければと期待します。

外見が「メガネ」として見られるのが良い!

眼鏡をしたまま、装着できるように用意された細かいパーツは心憎いです。さすがEPSONさん。なによりも、『EPSON MOVERIO BT-300』は一見すると「近代的なデザインの眼鏡?」と思えるまでに進化した外観です。以前のものは「ヘッドマウントディスプレイ、つけてます」と周囲にアピールしているようにさえ見えました。設計面でのこだわりが感じられます。軽量化され、持ち歩くことにも全く問題なく、収納ケース自体がコンパクトで素晴らしい。コントロールモジュールもポケットに入れたままで、手探りで使うことを可能にし、かつ必要のないディスプレイを付けなかったこともさすがです。

輝度とコントラストの高さはありがたい!

弱視の人間にとって『EPSON MOVERIO BT-300』の輝度とコントラストの高さはとてもありがたいものでした。ビルのトイレなどでも、最近はデザインを優先してインテリアのコントラスト差が少ない所が多く、駅の階段も含め、『EPSON MOVERIO BT-300』を装着していれば安心できることは間違いありません。

さらに、透明レンズなので自分が見える範囲の実像はそのまま、確認することができることも画期的なことです。

網膜色素変性症患者や視覚障がい者のための「補助具」として認定される可能性が高い

価格にしても暗視ゴーグルに比較し手の届くものであり、上記の問題がクリアできた暁には、網膜色素変性症患者や視覚障がい者のための「補助具」として認定される可能性が高いこともありがたいことです。実際、アメリカなどではこの『EPSON MOVERIO BT-300』に近いものが「読書機」として認められ販売され使用されています。

まとめ

『EPSON MOVERIO BT-300』を使って、EPSONの技術力に感服しました。以前、某カメラメーカーの新製品でレンズ単体にアプリが組み込まれたものが出来て、網膜色素変性症患者がそのレンズとスマホを組み合わせて使える機能をと相談した経緯がありますが技術的に困難と断られました。

EPSONさんの汎用性の高さは他のメーカーと一線をかくしていることを強く感じました。今後『EPSON MOVERIO BT-300』の「マイナーチェンジ」で、私たち視覚障がい者が健常者に近い生活を送ることができる補助具になることを確信しました。モニターさせていただいたこと、心から感謝しております。

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